1. はじめに
ブランディングを進めるにあたって、必ず必要になる「ブランドカラー」。色を見ただけで、特定のブランドを連想させることや、イメージや世界観を瞬時に伝えることができるため、ブランドのイメージを最も大きく左右する要素です。
「人間の目から入る情報のうち、約80% は色彩からの情報」だと言われており、さらには「消費者が商品を判断する要素の約90%は色」だとも言われているくらい、色彩が印象に与える影響は非常に大きく、多くのモノを色のイメージで覚えています。実際、何かブランドを思い浮かべた時にブランドのロゴは正しく思い出せないが、だいたいの色はわかる!という形は多いのではないでしょうか?
例としてブランド名は伏せた形で、いくつか普段よく目にするブランドのカラーをまとめてみましたので、どのブランドのカラーか当ててみてください!
カラーだけでも、どのブランドかすぐにお分かりになったとは思います。これはそれぞれのブランドが「ブランドカラー」の重要性を理解し、丁寧にカラーを訴求し続けてきたからこその結果です。もちろん、一朝一夕で全てのブランドができることではありませんが、長期的に正しく訴求し続けることで、このようにブランドイメージと直結した確固たるカラーイメージを構築することが可能となります。
2. ブランドカラーの種類と役割
「ブランドカラー」には複数の色を設定することも多く、多くは使用する優先順位によって役割が分かれています。
メインカラー
ブランドカラーの中でも、ブランドのイメージや世界観を最も象徴的に伝え、使用される場合、最も大きな表示面積を占め、1色から3色の色数を設定する場合が多く、多くの企業がこのメインカラーのみをブランドカラーとして設定しています。
サブカラー(アクセントカラー)
メインカラーに次いで表示面積が大きく、メインカラーを補い、色自体を引き立てるとともに、イメージや世界観を拡張させる役割を持っています。スマホアプリやWEBサイトなど、色によるコミュニケーションの機会が増えましたので、統一された体験を提供するためにも設定する機会が増えています。
ブランドの目的や使用媒体によって、設定する色数や役割は大きく変わります。しっかりと設定することで、統一した世界観や体験を構築しやすくなる反面、いたずらに多く設定しすぎると、管理が大変になってしまうことや、展開物の自由度を奪ってしまう可能性もあるので注意が必要です。
3. ブランドカラーの設定プロセス
「ブランドカラー」はブランドの代弁者としてブランドのメッセージやイメージ、世界観を伝えることができる重要な要素。そのため、いきなりカラーを選ぶのではなく、「ブランドカラーで何を伝えたいか?」「どのようにイメージしてほしいか?」というブランドを一度言語化するプロセスが非常に重要になります。
① キーワードを洗い出す
企業理念やブランドコンセプトなどを踏まえた上で、社員さまのマインドやお客さまからの評価や印象、今までの歴史や背景、販売するサービスや商品など、さまざまな視点からブランドを表現するキーワードを洗い出します。ポジティブなものやネガティブなものも含め、まずは数を出すことに注力し、出し切ることが重要になります。
② 重要なキーワードをピックアップする
一度出し切ったさまざまなキーワードから、ブランドにとって特に重要であると思われるキーワードをピックアップしていきます。その際、「社会やお客さまに一番伝えたいキーワードとは何か?」「ブランドやサービス、商品を最も表しているカラーは何か?」といった視点を持ち、議論しながらピックアップしていくことが重要です。
③ ピックアップしたキーワードを色に置き換えてみる
ピックアップしたキーワードを色に置き換えていきますが、その際に重要となるのが「色彩心理」です。「色彩心理」とは個人や住んでいる国、文化など、それぞれの背景によって細かな違いはあれど、多くの人がそれぞれの色に対して抱く共通イメージのことで、例えば「赤色」なら「情熱、挑戦、元気、明るい、力強い」などといったものです。
④ 色を検証し、ブラッシュアップする
キーワードを色に置き換えていくと、ある程度共通の色が多く見えてくると思います。それが多くの場合「ブランドカラー」に相応しい色です。まだ複数の候補がある場合や、細かな調整を行う場合には、ブランドロゴやWEBサイトなどのさまざまなデザイン展開に当てはめてみて検証やブラッシュアップを行ってください。イメージが明確になるため、オススメです。
ブランドカラーの設定は、企業理念の改変やブランドコンセプト開発、ブランドロゴ開発と並行して進行することがほとんどのため、単独で議論するという機会は少ないと思いますが、他の開発と並行する場合もこのプロセスをうまく組み込みながら行ってみてください。
4. ブランドカラー設定で注意したいポイント。
ブランドカラーを設定するにあたり、ついつい見落としがちな注意したいポイントをまとめました。
① 色が想起させるイメージとブランドの業態や想い、ターゲットなどが合致しているか?
長期的にブランドに対してどのようなイメージを抱いて欲しいかを議論し、「色彩心理学」なども参考にふさわしい色を設定すること。さらには、色を設定した理由をつい誰かに話したくなるほど想いをこめることがブランディングにおいては何よりも重要です。
② カラーがわかりやすいか?色数が多くないか?
あまりに薄い色や、言葉で表しにくい曖昧な色などは、カラーイメージが伝わりづらくなる要因となるので注意が必要となり、色数であれば多くの場合メインカラーとして設定する色は1〜3色程度に止めることがオススメです。
③ 色の詳細な設定と管理ができているか?
ブランドカラーは、適切な形で社会やお客さまに届けることで大きな効果を発揮しますが、その反面、非常にブレやすい要素でもあります。そのため、常に同じ品質を保てるように媒体に合わせた詳細な設定や管理が非常に重要になります。PCやスマホで表示するRGBカラーやWEBカラーであれば、管理は比較的楽ですが、印刷や路面サインなどは、印刷会社のクオリティや日光や照明の影響を受けやすいため、さまざまな検証を行った上で媒体にふさわしいカラーを設定することが重要です。
④ 競合や業界のメインプレーヤーが使用していないか?
一概に他と同系色を使用することが悪いわけではありませんが、しっかりとリサーチした上で検討し、ブランドにふさわしく、ターゲットとなるお客さまに最も効果的なカラーを選択することが重要です。
さらに、海外では昔から色を商標登録することができるため、「ティファニー」や「スターバックス」などが登録を行っており、日本でも最近、色や音を登録できるようになったため注意が必要です。
⑤ ビジネスを行う国や地域での色に対するイメージは?
文化的・宗教的背景などにより、日本人が抱く特定の色へのイメージと異なるイメージを抱いている場合があるので、特に海外でのビジネスを行う場合は注意が必要です。
注意したいこととしていくつか例示しましたが、上記に縛られすぎず、ブランドが伝えたい想いや価値観、ロゴのデザイン、役割・機能、ターゲットなどさまざまな要素を踏まえて、ブランドに最もふさわしい色を議論し、設定することが最も重要だと考えております。
5. 近年のブランドカラー使用傾向
最近では、基本的な「ブランドカラー」は設定するが、背景やポイントカラーとして使用し、あえて「ブランドロゴ」のデザイン自体には「ブランドカラー」を配色しないというケースも非常に多くなっています。
スマホやタブレットなどが当たり前になり、様々な媒体を通してブランドが「伝えたい想い」を伝える場所や手段、表現、選択肢が非常に増え、ブランドロゴは多くの場合、写真や動画、グラフィック、タイポグラフィーなどのデザイン要素と共に表示されます。社会環境の変化も早く、ブランドも常に変化や進化を続けなければいけません。
このように展開物でのブランド表現を優先させる場合、ブランドロゴに含まれる色が、展開物などとマッチしないことや世界観の表現を妨げる可能性があるため、あえて「ブランドロゴは無彩色」を採用するブランドが増えていおり、「apple」や「GUCCI」などの世界的なブランドを筆頭に多く見られるようになりました。
6. アップデートしながら管理していく
毎年ニュースなどで「トレンドカラー」が発表されているように、色は非常に移り変わりがしやすい要素でもあります。しかし、短期的に色を何度も変更するとさまざまな混乱が生じます。そのため、中長期的に変わらず愛されるであろう色を選ぶことや、ここぞというタイミングでアップデートし続けながら、ブランドデザインマニュアルなどの管理アイテムを軸に、ブランドに関わる誰もが適切に正しく扱えるよう管理し続けていくことが大切です。