「F-Story」第1回は、今年7月に新しいブランドとして生まれ変わった「株式会社ニコリオ」。なぜ会社全体のリブランディングを行ったのか、その理由と再出発するまでの道のりを聞きました。
取材先プロフィール
株式会社ニコリオ
サプリメントなどの健康食品を扱う会社として2004年に創業し、「こうじ酵素」や「ラクビ」等のヒット商品を開発。これまでは前身である株式会社ビアンネで「悠悠館」という屋号のもとオリジナル商品を販売していたが、2019年7月から株式会社ニコリオに社名を変更。ブランドも「NICORIO」へ一本化し、それに併せてECサイト、コーポレートサイトもリニューアルが完了したばかり。
山形 勇さん
開発事業部 部長。顧客情報を管理するCRM事業部にいたときに、顧客と一番距離が近いということで社内初のブランディング担当者に抜擢。ブランディングの知識はゼロからのスタートだった。現在は商品開発を行っている。
平沼支麻さん
ブランディングマネージャー。前職は外資系広告代理店の営業で、ブランディングや広告制作を担当。ブランドの移行期である2019年初頭に入社し、「NICORIO」のローンチに関わる業務に携わる。今後は「NICORIO」というブランドを世の中に広めていくのが使命。
変わりゆく顧客のニーズに応えるための大改革
「変化する顧客ニーズにどう対応していくか」は、多くの企業が抱える悩みです。サプリメントを中心とした健康食品の通信販売を行う「株式会社ニコリオ」(当時は株式会社ビアンネ)は2年前、まさにそんな課題に取り組んでいる真っ最中でした。会社からブランディングを任された山形さんは、当時をこう振り返ります。
「今思うと、あの頃はブランディングのことを本当に何も知らなかったですね。検索サイトで『ブランディングとは』と調べるところからのスタートでしたから」(山形さん)
抱えていた課題はふたつありました。ひとつ目は、会社が狙いとするターゲットと実際の購買層にズレが生じていたこと。いわゆる顧客の若返りが起こっており、会社としても変化の時期にあったのだといいます。
「もともとメインの顧客層は70代以上のシニア世代でした。広告も新聞の折り込みチラシが主力だったのですが、それがウェブ広告へとシフトしていくと、顧客層がどんどん若返っていったんです。特に40〜50代の女性のお客様が増えてきていたのですが、依然として商品の名前やパッケージデザイン、チラシなどはシニア向けで。そこを変えていかなければいけないというのが大きな課題でした」(山形さん)
もうひとつは、社長の想いです。
「サプリメント業界って、なんだか怪しくてグレーなイメージがあると思うんです。そんな世間からの見られ方を変えていきたい。うちがその先駆者になるんだ、ということを社長は常々言っていました。それであれば、社名も屋号も、パッケージも一本化して、新しいブランドを醸成していこうと。そういう経緯でブランディングをしていくことが決まったんです」(山形さん)
全員参加で一致団結。会社を巻き込んだワークショップ
そうしてブランディング会社の選定に入った山形さんですが「そもそも、ブランディングという言葉に少し怖じ気づいていました」といいます。そこには、ブランディングというものの“わからなさ”が漠然とした不安としてつきまとっていたのです。それを解きほぐしてくれたのが、ワークショップ形式で行った社内全員参加の議論でした。
「ブランディング会社の候補は3社あったのですが、2社はいわゆる丸投げ方式。こちらで全てやりますので、という感じ。でも1社だけ『ワークショップ形式で、社員の皆さんと一緒に進めていきましょう』という提案をしてくれたんです。それならやってみようと。社内でも好評でした」(山形さん)
そこからは当時13名だった社員全員で、全6回+αのワークショップを行いました。その内容にも、色々と驚きがあったそうです。
「びっくりしたのが、社内のことにどんどん入ってくることです。この会社の問題点は? とか、指揮系統は? というようなところまで提案をしてくれるんです。ブランディングって、もっと対外的なものだと思っていたんですが、対内的な部分にも目を向けて会社全体をブランディングしていくっていうのは新鮮でしたね」(山形さん)
「普段は自分の仕事がプライオリティの上位を占めていて、なかなか会社のことにまで目が行かないですよね。改めて自分が働いている会社ってどうなの? とか、3年後どうなっていたい? ということも社員全員で意見を出し合うっていうのは、いろんな気付きがあったと思います」(平沼さん)
新しい社名や、ブランドのコンセプトなど、意見を出し合う項目は多岐に渡ります。そんな中、ブランディング担当として先頭に立っていた山形さんが感じたことに、対内的なブランディングの大切さが現れていました。
「このワークショップをやったことで、自分たちイチ社員にはビジョンがなかったな、ということが浮き彫りになったと思うんです。これまでは、目指すべきものが何かもわからないまま、何となくお客様に商品を売っていた。もちろん社長には考えがあったのでしょうけれど、そのイズム的なところが全然浸透していなかったな、と。それに気づけたからこそ、みんな別の方向を向いていたものが、回を重ねるごとに一つの方向にまとまっていけたのだと思います」(山形さん)
「NICORIO」始動。ようやく立ったスタートライン
それから数ヶ月かけて社員たちの意見はひとつにまとめられ、社名やブランドコンセプトも無事に形になりました。
「ブランディングに参加している実感があったからこそ、より良い物ができて良かったと思っています。最終的な部分はワークショップではないので、できれば最後まで参加したかったんですけどね……それだけが心残りです」(山形さん)
紆余曲折を乗り越えて2019年7月、ついに「株式会社ニコリオ」が始動。これまで異なる名前で運営していたブランド、ECサイトを一つにまとめ、NICORIOとして新たな一歩を踏み出しました。現在は同年に入社した平沼さんがブランディングマネージャーを務めています。
「ローンチから約3ヶ月が経ちましたが、やっとスタートラインに立ったと言う方が正しいのだと思います。これからNICORIOの認知度をどう高めていくかが重要で、そういう意味では、なかなか大きな責任を背負ってしまったなと(笑)」(平沼さん)
平沼さんはそう笑いますが、もちろん、今後の展開もいろいろと考えているようです。また、パッケージも新しくなったことで、商品自体の雰囲気は大きく変わりました。良い意味でサプリっぽくなく、デザインのテイストにも、社員たちの人柄の良さが滲み出ているようです。
生活に馴染むようなパッケージデザインというのは、特にこだわった部分でもあります。というのも、特にダイエット系のサプリなどは飲んでいることを他人や家族に知られたくない、という方が多くいらっしゃいます。店頭販売のサプリであればパッケージ内で製品特徴を主張せざるを得ませんが、通販の場合はウェブページで訴求できますので、あえてパッケージには商品名とブランド名だけを記載して、シンプルに仕立てました」(山形さん)
ブランドの認知度向上が今後の使命
一方、今後の課題も少しずつ見えてきています。「サプリメント業界のグレーなイメージを払拭したい」という社長の思いの実現のためにはブランドコンセプトを社内でも共有していくことが欠かせませんが、まだ浸透しきっていない側面もあるのだとか。
「実はブランディングを始めた2年前は社員が13名でしたが、今では40人強まで増えているんです。私も含め、ワークショップを経験していない社員の方が多数派。なので、しっかり普及していくためにも、ブラッシュアップできるところには、しっかりと手を入れていきたいですね」(平沼さん)
先述の通り、ブランドのローンチはスタート地点。一般の顧客への普及も今後の大きな課題のひとつです。
「以前から600万袋を売り上げている商品もありますし、決して認知度が低いわけではないんです。でも、それはあくまでも商品名の話。企業のブランドの認知不足は悩みの種でもありました。今回、社名を統一したことで『NICORIOのこのサプリ』ということが明確になりましたので、ここから認識を広め、NICORIOなら安心だ、信頼できると思って貰える存在になっていけたらいいですね。そんな地道な努力が、サプリメント業界のグレーなイメージを払拭することへと繋がっていくのだと思います」(山形さん)
最後に、お2人それぞれに尋ねてみました。「あなたが思うブランディングとは?」
「ブランディングは、会社の思いとお客様の思いを繋げる大切なものだと思っています。お互いに高め合っていけるようなものとして、今後も『NICORIO』というブランドを育てていきたいですね。特にサプリメントは長期的なお付き合いになるものですから、しっかりと深い関係性を築いていけたら理想です」(平沼さん)
「初めて携わってみて思ったのは、この先もずっと続けていかなればいけないものなのだということです。継続することをやめてしまったら、これまでに積み上げてきたものが全てなくなってしまいます。お客様に対してもそうですし、社内に向けても『私たちはNICORIOです』と言い続けていかなければなりません。十分に浸透するまでどのくらい掛かるか分かりませんが、それが企業として、一番大切にしていかなければならないことなのだと思います」(山形さん)