近年、世界中で「パーパス」という言葉が注目を集めています。「パーパス(Purpose)」は、「目的、意図、決意」などと訳される言葉ですが、企業経営においては「存在意義」として、企業や組織が、社会において何のために存在するのかを示すメッセージ(Why)を表します。
なぜ今、「パーパス」なのか
企業経営や我々のブランディングの業界において、「企業の社会的な存在意義」という考え方自体は決して新しいものではありません。エフインクでもこれまで長きにわたり、クライアント企業の存在意義(クライアントが事業を行う理由や、将来的に成し遂げたいこと)について、「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」や「社是」など、組織に適したさまざまな形でご一緒に言語化し、表現してきました。
経営の世界においてここ数年「パーパス」という言葉が目立って用いられるようになったことには、「CSV経営」という捉え方が大きく影響していると考えられます。
従来から多くの企業が、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)や、近年ではSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という形で、社会の中での企業価値を明らかにしながら企業活動を行うことを模索してきました。社会貢献を取り入れることによって、あらゆるステークホルダーからの共感や信頼を得られる・企業イメージが向上するなど、企業にとってのさまざまなメリットが期待できるためです。
しかし、単に社会に役立つことだけを考えていては、企業体として利益を産み続けることはできません。そこで生まれたのが「社会貢献に繋がり、かつ会社の利益になること」、その両立を目指すCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)という概念です。CSV経営は、事業の一環として経済的な利益を追求しながら社会課題に向き合い、かつ社会との大きな共感を創造し育むという、積極的かつ戦略的なアプローチとされています。
このCSV経営を成功に導く鍵として注目されているのが、社内外のステークホルダーに対して「私たちは何のために存在しているのか」という強いメッセージを届け、ステークホルダーの共感を生む「パーパス」という存在なのです。
企業の活動の方向性をパーパスというひとつのメッセージによって明確に指し示すことで、そのメッセージに共感したステークホルダーは「ブランドの志に共感するひとりのファン」となり、精神的なつながりをより深めることができます。
さらに、パーパスが明確になることで、企業活動における新たな価値創出の可能性も広がります。例えば「パーパスに賛同する社外のパートナーとともに、新しいビジネスモデルを構築する」「パーパスを実現するために全く別の視点から新規事業に挑戦する」など、これまでの事業カテゴリにとらわれない斬新なアイデアが生まれてくるかもしれません。
ブランドに一つの大きなブレない軸(パーパス)を通すことで、企業は利益を出しながら持続的な成長を続けることが可能となるのです。
パーパスと従来の企業理念とは、何が異なるのか
それでは、「存在意義」という意味で使われるパーパスは、これまで企業理念のスタンダードとされてきた「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」などと何が異なるのでしょうか。
例えばミッション(Mission)は「使命」や「意義」、ビジョン(Vision)は「方向性」や「目指す姿」として定義されることの多い言葉です。しかし、実際にはそれぞれの企業によってこれらの解釈や役割は異なり、パーパスとの違いを明確にすることは難しいのが現状です。
しかしパーパスが「社会の中で我々はこうあるべき」という組織の将来的姿や行動に着目したメッセージということを考えると、日本には300年以上前から「自分良し・相手良し・世間良し」の「三方良し」という考え方が古くから定着しているように、人のため・世間のために志をもち、事業に取り組んでいる企業が数多くあります。このような企業には、その経営の精神の中にパーパスと呼べるものがすでに存在していることも多いのではないでしょうか。
欧米由来の新しい言葉のように捉えられがちなパーパスですが、改めて開発しなくとも「現状のミッションやビジョンを見直してみたら、すでにパーパスと言える内容が表現されていた」という企業も、実は数多く存在することと思います。
エフインクが考えるパーパス
私たちエフインクがクライアントとともにパーパスを開発(発見)する際には、以下のポイントを大切にしています。
1 : 「自社ならでは」のメッセージになっているか
パーパスは共感の輪を作り出すことが目的ですので、それぞれのステークホルダーが自分ごと化できるレベルの具体的な解像度に設定されていることが大切です。パーパスの抽象度が高すぎる(きれい事すぎる)と、どの会社でも当てはまるような平易な内容に聞こえたり、実際の行動や取り組みを考える際に遠すぎて落とし込みにくいなどの、浸透しづらいものになってしまいます。
パーパスを検討する際には「自社らしい手触り感のある、独自性のあるメッセージになっているか」を強く意識することが最も重要です。
2 : 企業の現状にフィットした未来視点で考えられているか
パーパスとは基本的に、企業の持続可能性を視野に未来志向で作られるべきものとされており、特に大企業においては30年後~50年後といった長期的な単位での高い目標をかかげるべき、と唱える有識者の方もいます。
しかし、企業規模や現在置かれている状況によっては、あまりに遠く未来の夢物語を語るよりも、「いま自分たちはなぜこの事業に取り組んでいるのか」を改めて可視化することのほうが重要な場合もあります。
どのくらいの距離感の未来視点で自社のパーパスを設定するのかを見極め、ステークホルダーをしらけさせない、それぞれの感覚にリンクした表現を検討する必要があります。
3 : ワクワクを生む表現になっているか
パーパスは、ステークホルダーの中でも特に社員の心をゆさぶりモチベートするものである必要があります。
どのような時にも現場の社員にとっての道標となり、一人ひとりが「なぜこの企業で働きたいと思ったのか」「この仕事を通して何を叶えたいのか」をいつでも確認できるような、高揚感を促す、パッションのあるメッセージであることが理想です。
パーパスを通してブランドの新たな魅力を発見しよう
今改めて「パーパス」の必要性が問われている前提には、CSV経営という視点はもちろん、「持続可能性」というワードが地球規模で課題となっていることや、就職活動において金銭よりもやりがいを重要視する世代(ミレニアル世代・Z世代)の台頭など、さまざまな現代社会特有の潮流や人々の価値観の変化が関わっています。
このような背景の中、メディア等で 「パーパス」という言葉が急速にトレンド化し、一人歩きしているような感覚はありますが、世の中がパーパスの必要性・重要性を確実に認識し始めていることも事実です。
私たちエフインクが日々ブランディングに携わっていても、この世の中の流れを「社内外的にブランドの求心力を強める良いタイミング」と捉え、自社の存在意義や企業理念を改めて明確化し、社内外に対して発信したいというクライアント企業が増えていることを実感しています。
この機会に「社会における存在意義」という目線を踏まえて、自社の取り組みや理念体系を振り返り、検討し直してみると、今まで可視化できていなかったブランドの魅力を新たに発見することができるかもしれません。